外伝 マトイ・ナヒサコ編

 
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「あてる」という言葉は、博打から色恋沙汰などあらゆるものに通ずることもあり……。
必中の神であるマトイ・ナヒサコの社には、日々人の来訪が途切れることはない。
下界の人間は皆、ここの神を崇め、深い深い感謝をするのだ。
集まる「ご利益ぽいんと」は、どこぞの20ぽいんとの神とは桁が7つほど違う。
だが、尊ばれ崇め奉られる必中の神にも、悩みというものが存在した。


しかし、どうしたものか……。

物事に始まりと終わりがあるように、恋や愛には出会いだけではなく別れも含まれる。
当然、そうなってしまった人々は心に深い傷を負うこととなり……
結果的に、それによって生まれた哀しみや怒りをマトイにぶつけてくるのだ。
神社内に落書きをしてみたり、境内に石を投げ込んでみたり……。
果ては賽銭箱やら本坪を叩き壊そうとするとんでもない輩までいた。
トミのいうところの「すとれす解消」というやつか……。
なっておらん! 最近の下界の連中は全くなっておらんぞ!
言いながら、マトイはプンスカと地団太を踏む。
そう、恋を叶える、心を射抜くことはマトイの仕事だが、別れ話だのなんだのはお門違いだ。
それに私がいくら必中の神でも、八つ「当たり」などというものはお断りだ!
ああもう! 願い叶えた後のことは知らん! そこから先は私の埒外だろうが、まったく!
そういうことがわからぬ人間が増えすぎている。嘆かわしい!
マトイはひとり頷くなり、立ち上がって支度を整えた。
……こうなったら下界に降りて、何が起きておるのか見定めてやる。
場合によっては、説教のひとつでもしてやらねばな!


怒りに肩を震わせながら、ずんずんとマトイは大股に下界への道を行く。
なっていない。全くなっていない、なんてことを考えていると──。
ふと、草むらの向こうから「好きだ!」なんて言葉が聞こえてきた。
……ほう。
マトイがその方向を見ると、やや離れた石垣の辺りに人間の男女がいるのが見える。
ほう……ほうほうほう……。
マトイは、人間には見えないというのに、忍ぶようにふたりへ近づいていく。
必中の神とはいえ、このような場面に出くわすことはそう多くない。
さっきの怒りはどこへやら、彼女の中には二人のやりとりへの興味が湧いてきた。
ちょっとした寄り道だ、と自分に言い聞かせ、マトイはこっそりと観察を始める。
ふーむふむふむ……なーるほどォ……?
……あらやだ、すごくいい感じではないか。
マトイの神眼で見た通り、男子の恋心の矢は女子の心を射抜く寸前。
あと一歩、あと一歩で「当たる」。マトイはそう確信した。
いいぞ! もうひと押しだ、男子よ! そのまま、女子の心を掴んでみせろ!
木の背後に隠れ、食い入るように見つめるマトイ
このような姿、ほかの神々には見せられない──などと考える余裕は今の彼女にはなかった。
……が、男子はなんだかこう、モジモジとして尻込みしているようだ。
何 故 言 わ ぬ !
ただ一言! ただ一言でその女子を仕留め──じゃない、射止められるというのに!
もどかしさに身をよじるマトイの念が通じたのか、男子は口を開き……。
ため息と一緒に閉じてしまった。ずっこけるマトイ
口を開いたら声を出さんか!! 思いの丈をぶつけよ! 今しかあるまい!!
次第にマトイの声援にも熱がこもる。
その瞬間、まるで水を差すように、石垣を挟んだ対面の草原から、邪悪な影が──!
ぐぉぉ……いい所なのになんたる……!! 邪魔する奴は許さんぞ!
我が愛銃で、ことごとくぶち抜いてくれる!
マトイはそう叫び、邪悪な影へと銃口を向けた!

(戦闘終了後)

魔物をぶち抜き、再び静寂が訪れた頃、男女は手をつなぎ、見つめ合っていた。
最も大切なところを見逃してしまったが……。
うんうん、よくやった。男子たるもの、乙女を強引にでも引っ張るくらいでなくてはな!!
そう、できることなら自分も──と思った途端、マトイは顔が熱くなるのを感じた。
だが。
”そんな素敵な男神がいるのなら、私は……”
……そんな日が来ると信じて、幾年が過ぎたというのだ。
湧き上がった熱は、急速になりをひそめる。マトイは肩を落とし、うつむいた。
自分のこととなると、必中の神も形なし──何もかもがうまくいかない。
……帰ろう。
鬱々とした気持ちを抱えたまま、歩き出したそのとき。


「ありがとう、マトイ様。」



「想いが届き、彼女と結ばれました……!」






マトイに感謝する声が聞こえてきた。
気づかれたのかと思ったが、そんなはずはない。ただ、お礼を述べられた──それだけのこと。
…………。
若者も見捨てたものじゃないな。心が荒んでいたのは、私のほうだったか。
うん、なんだか俄然やる気が出てきた。喧嘩神輿を勝ち抜いて、私も素敵な恋をするのだ!
マトイは心を弾ませながら、来た道を振り返る。
憤りも消え、下界の人間に元気を分けてもらい、彼女は力強い一歩を踏み出した。
ただ、彼女の恋がどうなるのかは、また別の話。
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